青梅日日雑記

旅、落語、本、鉄道、食、映画、文楽、音楽、その他、日乗。

柳家喬太郎「宮戸川」通し

 
鈴本演芸場七月中席夜の部六日目
喬太郎夏のRー18」
 
圭花  道灌
一蔵  芝居の喧嘩
翁家和楽社中  太神楽曲芸
さん生  藪医者
市馬  高砂や
小菊  俗曲
白鳥  シンデレラ伝説
たい平  長短
〜仲入り〜
文左衛門  ちりとてちん
アサダ二世  奇術
喬太郎 宮戸川(通し)

 

「性的な表現や残忍な描写が含まれますので予めご了承を」
と断り書きが示された、喬太郎主任の鈴本の今席。
この日は、「宮戸川(通し)」だった。
だいぶ前、お江戸両国亭で行われた
講談の神田愛山先生との二人会で、聴いたことがある。
それ以来の、再聴。
まだ落語を生で聴き始めたばかりのころだったから、
落語には、こんな生々しい噺もあるんだ、と驚いた。
 
さて、今回の「宮戸川」。
 
ちょうど六日目。前半が上手く行ったものだから
ちょっと油断した、と本人が仰っていた。
どうやら夏風邪をひいたらしく、声の調子がよくない。
かすれ声は誰の耳にもすぐに分かった。
だが、体調自体は、悪くはなさそうだった。
そのためかどうかは、わからないけれど
前半の、よく寄席でも聴く「お花半七馴れ初め」は
オーソドックスに、ギャグも控えめで、アッサリとした出来。
 
そして後半。
 
他人の中ではなくなった、お花半七は
霊岸島の叔父さんがあいだに入って、夫婦になる。
ところが半七の父親は、それでも勘当を解かない。
この辺から、噺のトーンが変わって、
緊張感が高まってくる。
 
噺のトーンが変わる、といえば、雨の描写。
前半のお花と半七が、一つになる場面。
後半のお花が雷門から、拉致される場面。
ちょうど映画のオーバーラップやワイプのように
聴いている者にとっては印象的だった。
 
さて、問題の亀の独白の場面。
 
亀は船頭だが、極悪人。
半七は。お花が居なくなってから、三年目に
もう死んだだろう、ということで三回忌の法要を催す。
そのかえり、猪牙舟に乗って帰るのだが
そこに図々しくも、泥酔して舟に割り込んでくる。
 
ここから亀の独白が始まる。これが生々しい。
 
正直、落語でこんなのやっていいのか、と思ったぐらい。
その点では、冒頭の注意書きは、嘘偽りはない。
一方で思ったのは、亀が語った行いの凄惨さ、残忍さより
そこでは一言も喋らない、半七の憎悪が
客席の聴いている者に、フツフツと湧いてきたこと。
その半七の気持ちを、半七には一言も語らせず
その残虐行為を行った、亀の台詞に織り込むとは。
聴く方の受け取り方によるのかもしれないけれど、
こんな表現が出来るのは、喬太郎師だけだろう。
 
これからは、余談。
 
その昔、TBSラジオで「夜のミステリー」という
10分間の番組があった。
オリジナルや過去の名作、リスナーの実話体験談などを
ドラマ化した、ホラー恐怖シリーズ。
1970年代半ばから80年代にかけて放送されたから
もしかすると、ラジオのヘビーリスナーだった師匠は
聴いていたかもしれない。
 
「宮戸川」の通し、と聴いて思い出したのが、その中の1篇。
 
水道工事をしている土工が、近所の家に
水を呑ませてくださいと、やってくる。
応対した若い人妻は、何の警戒心もなく、家に上がらせる。
ところが欲情に駆られた土工は、その人妻を犯してしまう。
その行為が終わったあと、その土工は、喉が渇いたのか
台所の蛇口をひねって、水を呑む。
ところが、蛇口から出てくるその水が
呑んでいるうちに蛇に変わり、その土工を窒息死させてしまう。
そばで佇み、不気味な笑みをたたえる人妻。
 
大雑把なあらすじはこうだが、題名も覚えていない。
たしか遠藤周作原作、そして西田敏行が出演。
どこか、テイストが喬太郎師のそれと、似ている。