青梅日日雑記

旅、落語、本、鉄道、食、映画、文楽、音楽、その他、日乗。

「そして、人生はつづく」

そして、人生はつづく

そして、人生はつづく

大震災を境に自身の無力感に苛まれながらも、市井の人たちの前向きな生き方に癒されて行く川本さんの姿に読んでいるこちらも癒される。そしてまた、川本さんの紀行文を読めば、また旅にも行きたくなる。

おもにに雑誌「東京人」に、2010年から2012年までに連載されたエッセイを中心に編まれた、「川本節」満載の一冊。

最愛の奥様を亡くされて(2008年没)、暫らく経ったころ。悲しみに暮れるより、一日一日を大切に生きて行こうと、次第にまえををむきだした老境にいる文筆家の気持ちが、こもっている。それは「今も、君を想う」の出版や、「マイ・バックページ」の映画化に後押しされた、ということもあろう。しかし幾度かの、東日本大震災の傷跡を辿る旅を通じて、とてつもない天災人災を前にしても、絶望から立ち上がる市井のひとたちの想いに接して行くうちに、川本さんの内面が勇気づけられていくのが、よくわかる。

ただ自分の無力さ故に、様々な怒りが湧いてくるのも、如何にも川本さんらしいが、その矛先の向け方が一方的だったり、公平さに欠くと思われるところもないではない。「マイ・バックページ」を愛読し川本さんのファンであれば、この辺りのラジカルさ故に、シンパシーを感じ、理解も出来るとは思うが、果たして一般の読者にとってはどうか。

それにしても、相変わらず、旅の文章はいい。素敵だ。読者が、実際にそこへ行ってみたいと思うようになるのも、無理はなく、自然なことだ。つい先日、文中に幾度となく登場する、千葉県銚子市の外川に行ってきた。川本さんが書いたとおりの、何も変わらず時が流れる、日本の原風景があった。まさにこれは、川本さんのファンでなければわからない体験である。